現在、様々な業界でDXの推進が叫ばれています。物流業界も、例外ではありません。物流業界は、人手不足をはじめとした多くの課題を抱えています。その課題の解決策の1つが、物流DXなのです。本記事では、物流DXで取り組むべきことやメリット、注意点などをまとめて解説します。
物流業界の抱える課題
物流業界では、深刻な人手不足や働き方改革による制約など、複数の課題が顕在化しています。主な課題は、以下の通りです。労働人口の減少
まず、労働人口の減少は業界全体に大きな影響を及ぼしています。厚生労働省の調査によると、物流業界の人手不足は全職業平均の約2倍に達しており、特にドライバー不足が深刻です。原因として、労働時間の長さ・賃金水準の低さ・高齢化の3点が挙げられます。物流業は全産業平均より約2割長い労働時間でありながら、賃金は約1割低い水準にとどまっています。また、トラックドライバーの平均年齢も高く、今後さらに高齢化が進むことでしょう。
物流の2024年問題
次に、物流の2024年問題と呼ばれる新たな制度上の課題もあります。2024年4月からトラックドライバーの時間外労働が年間960時間に制限されることで、輸送能力の低下が懸念されています。これにより、これまでのように柔軟な配送対応が難しくなり、荷主や消費者が希望するスピード配送が実現しにくくなる可能性が高いです。さらに、輸送量の制限に伴い売上やドライバーの収入が減少する恐れもあります。
一方で、EC市場の拡大により物流需要は増加しており、限られた労働時間の中で効率的に配送を行う仕組みの構築が急務です。
高度物流人材の育成
最後に、これらの課題を解決する鍵として「高度物流人材の育成」が求められています。高度物流人材とは、サプライチェーン全体を俯瞰し、デジタル技術を活用して最適化を図れる人材のことです。単なる現場経験に頼るのではなく、データ分析に基づく意思決定力や、新技術導入・異業種連携を推進する力が重視されています。物流DXを成功に導くためには、こうした戦略的思考を持つ人材の育成と確保が不可欠であり、業界全体での体制強化が今後の重要な課題となっています。
物流DXで取り組むべきこと
物流業界では、深刻化する人手不足や効率化の要求に応えるため「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の推進が急務となっています。DXとは、テクノロジーを活用して業務プロセスやビジネスモデルを抜本的に変革する取り組みであり、物流分野においてもIoT、AI、ロボティクス、ブロックチェーンなどの技術を活用した改革が進められています。IoTによるデータ収集・解析
まず注目されているのが、IoTによるデータ収集と解析です。IoT(Internet of Things)とは、あらゆるモノがインターネットを介して接続され、データを相互にやり取りできる仕組みを指します。物流分野では、倉庫管理システム(WMS)や輸配送管理システム(TMS)にIoTが活用されており、商品の入出荷や在庫状況をリアルタイムで把握し、効率的な物流運用を実現しています。たとえば、トラックの積載量や走行ルート、交通情報などのデータを解析して自動で最適な配車を行う仕組みが整いつつあり、従来の属人的な判断に頼らない合理的なオペレーションが可能です。
ロボット・ドローン技術の導入
次に、ロボットやドローン技術の導入も物流DXを支える重要な柱です。倉庫内では、商品を自動でピッキングするロボットや、段ボールの組み立て・封入を行う梱包ロボットが導入され、人手不足の緩和と作業効率の向上を実現しています。さらに、配送分野では自律走行型の配送ロボットや、離島・山間部など交通アクセスが難しい地域でのドローン配送の実証実験が進行中です。これにより、配送コストの削減だけでなく、災害時の緊急輸送など社会的インフラとしての役割も期待されています。
配送ルートの最適化
また、AIによる配送ルート最適化も進展しています。従来、配車業務は担当者の経験と勘に依存していましたが、AIが顧客データ・交通状況・ドライバーの稼働時間などを解析し、最適なルートを自動的に算出可能です。これにより、配送効率の大幅な向上と燃料コスト削減が可能となるほか、ドライバーの労働時間短縮にもつながっています。近年では、AIが家庭の電力消費データを分析し、在宅・不在を予測して配送タイミングを最適化する試みも行われており、不在再配達の削減に貢献しています。
ブロックチェーン技術の活用
さらに、ブロックチェーン技術の活用も注目を集めています。ブロックチェーンは、各工程のデータを安全に共有・記録できる分散型台帳技術であり、サプライチェーン全体の可視化と透明性向上に寄与します。原材料の調達から製造、在庫、配送、販売に至るまでの情報を一元管理することで、企業間でリアルタイムにデータ共有が可能です。これにより、取引の正確性やトレーサビリティの強化が期待されています。
この仕組みは、宅配ロボットの運用や国際物流の管理にも応用されつつあります。
デジタルマーケティングの活用
デジタルマーケティングの活用もDXの一環として重要です。物流業界では、在庫・出荷・配送データといった大量の情報を活用し、荷主企業の生産や販売データと組み合わせることで、サプライチェーン全体をデータドリブンに最適化できます。これにより、企業は需要予測に基づいた在庫管理や生産計画を立てられ、コスト削減と販売機会の最大化が実現します。
ワークフローシステムの導入
DXを推進する中で「どこから手をつけるべきかわからない」と悩む企業も少なくありません。その際に効果的な第一歩となるのが、ワークフローシステムの導入です。これは、稟議や申請、承認といった社内業務を電子化する仕組みであり、物流業務においても大きな効果を発揮します。紙ベースで行われていた配送伝票や送り状などの管理をデジタル化すれば、業務効率の向上とコスト削減が可能です。
また、勤怠や業務報告をデータ化することで、従業員の労働時間や業務状況を可視化し、長時間労働の防止や公平な人事評価にも役立ちます。さらに、ワークフローシステムはDXの「基盤構築」にもつながります。
サプライチェーン全体での手続きの電子化を進めることで、他の業務システムとの連携が容易になり、物流業務全体のデジタル化を支える土台が整うでしょう。
物流DXのメリット
物流業界におけるDXの導入は、企業の競争力を高める重要な手段として注目されています。その最大の特徴は、生産性・コスト・品質の三方向から業務の最適化を実現できる点にあります。人手不足の解消
まず、生産性の向上による人手不足の解消が挙げられます。ロボットやマテハン機器(マテリアルハンドリング機器)を導入することで、従来は人の手に頼っていた倉庫作業や仕分け作業が自動化され、作業効率が大幅に向上します。さらに、AIが需要や作業量を分析して最適な業務計画を立てることで、少人数でも高いパフォーマンスを発揮できる環境を実現可能です。これにより、深刻化するドライバーや倉庫スタッフの人手不足を緩和し、従業員をより戦略的で付加価値の高い業務へとシフトさせることが可能になります。
コスト削減
次に、業務効率化によるコスト削減も大きなメリットです。AIによる配送ルートの最適化で燃料費を削減できるほか、需要予測技術の精度向上によって過剰在庫や欠品を防ぎ、在庫保管コストや廃棄ロスを抑えられます。また、伝票や帳票類を電子化することで、紙や印刷物のコストだけでなく、手入力や保管業務の手間を削減し、事務作業全体の効率を高めます。倉庫内の自動化も進めば、人件費や作業ミスの削減にもつながり、物流全体のコスト構造が改善可能です。
顧客満足度の向上
そして、輸送品質と顧客満足度の向上も見逃せません。IoT技術を活用することで、荷物の位置情報や温度管理をリアルタイムで追跡できるようになり、配送状況を正確に把握・共有できます。これにより、配送の遅延や誤出荷といったトラブルを未然に防ぎ、顧客へ正確な情報を提供することが可能です。安定したサービス提供が信頼獲得につながり、顧客満足度やリピート率の向上にも寄与します。

