人件費や燃料費の高騰が重なり、物流業界ではコストの最適化・削減が急務とされています。しかし、適切なコストの削減を実現するためには、物流コストに関する基礎知識を身に付ける必要があります。本記事では、物流コスト最適化について深掘りして解説するので、ぜひ参考にしてください。
物流コストとは
物流コストとは、物資を供給者から需要者へ移動させる際に発生する、物流に関わる全ての費用を指します。単に輸送や運送費に限らず、社内のシステム費用や人件費などの「社内物流コスト」と、外部委託先への輸送費や倉庫・設備の賃料などの「支払物流コスト」を合算したものが物流コストです。つまり、物流業務に必要な人的資源や情報システム、物理的な設備まで、あらゆる費用が含まれる総合的な概念といえます。物流に関わる企業や担当者にとって重要なのは、どの業務にどれだけの費用がかかっているのかを正確に把握することです。
この把握により、効率的な物流管理やコスト削減の施策を検討できます。例えば、輸送ルートの見直しや倉庫管理の効率化、外注先との契約条件の最適化など、具体的な改善策を立てるための基礎情報として機能します。
物流コストは、企業経営全体に影響を及ぼす指標です。そのため、単なる費用項目として扱うのではなく、戦略的な視点で管理する必要があります。
物流の効率化は、企業の競争力や利益率にも直結するため、コストの内訳や構造を理解し、適切な管理・改善を行うことは現代の物流業務において欠かせない要素です。
物流コストの内訳
物流コストは、企業が商品を供給者から需要者に届ける際に発生する費用全般を指し、大きく分けて「輸送・運送費」「荷役費」「保管費」「管理費・人件費」の4つの要素で構成されています。各項目について理解することは、効率的な物流運営やコスト管理のために非常に重要です。輸送・運送費
まず、輸送・運送費は商品を販売した際に必要となる運賃を指します。具体的には、チャーター車両費用や宅配便の配送料、自社トラックのガソリン代や減価償却費などが該当します。この費用は物流コストの中でも割合が大きく、企業の売上や利益に直接影響するため、削減の工夫が重要です。また、ユーザーに商品を配送するための物流を構築する際には初期コストも発生するので、事前に必要な準備を十分に検討し、費用対効果を確認することが大切です。
荷役費
次に、荷役費は荷物の入出庫、運搬、積付け、仕分け、ピッキングなど、倉庫内での作業にかかる費用を指します。作業量に応じて時間や費用が変動するため、効率化を図ることで削減が可能な費用です。例えば、ロケーション管理によるピッキング導線の最適化や、WMS（倉庫管理システム）の導入による作業効率の向上が効果的です。また、企業規模や荷量によってはシステム導入の費用対効果が見合わない場合もあるので、その際は外部企業へのアウトソーシングを活用することも一つの方法といえます。
保管費
保管費とは、商品を取引先に納品するまでの間、倉庫などで品質や数量を保持するためにかかる費用を指します。具体的には、倉庫の賃貸費用や自動倉庫の管理費、火災保険料などが含まれます。自社倉庫を保有する場合と外部倉庫を利用する場合では、コストに差が生じる傾向が強いです。在庫の保管方法や委託先との契約内容を見直すことにより、効率的にコスト削減を図ることができます。
管理費・人件費
最後に、管理費および人件費についてです。管理費は物流システムや受発注システムなどの導入・運用にかかる費用を指し、人件費は物流担当者や作業員、物流会社の営業担当者などの給与が該当します。システム導入にはまとまった予算が必要なので、事前に費用対効果を十分に検証することが重要です。
また、自社で物流スタッフを採用した場合、繁忙期と閑散期で人員の柔軟な配置が難しい場合も多いです。その場合は、外注を活用することで効率的にコストを抑える方法もあります。
物流コストの見直しポイント
物流コストを効率的に管理し削減するためには、特に「人件費」「保管費」「情報処理費」の三つの費用に注目することが重要です。これらの費用はいずれもランニングコストとして日々発生するものであり、業務の効率化や運用方法の見直しによって大幅な削減が期待できます。しかし、多くの企業においては現状のまま運用してしまい、無駄なコストを支払い続けているケースが少なくありません。そのため、定期的に見直しを行い、現状よりも低い費用で同等の業務を遂行できないか検討することが、物流コスト削減の第一歩となります。
人件費
物流における人件費は、日々の作業効率に直結する非常に重要な費用です。業務フローが最適化されているか、誰が作業しても同じ品質を維持できる体制になっているかを確認することが、無駄な人件費を防ぐうえで不可欠といえます。また、自社で作業員を雇用している場合、人件費は固定費として計上されるので、注文が少ない月であっても削減することは難しい状況です。そのような場合には、荷量の変動が大きい企業においては外注を活用し、人件費を変動費として扱うことで、必要なタイミングで柔軟に調整できる体制を整えることが有効といえます。
さらに、採用や教育にかかる費用も人件費に含まれるため、新人研修や教育プログラムの効率化を併せて検討することで、総合的なコスト削減につなげることが可能です。
保管費
在庫を倉庫で保管する際には、常に保管費が発生しており、その総額は軽視できないものです。自社で倉庫を保有している場合は、過剰在庫を解消して適正在庫を維持することや、光熱費などの維持費を削減できないかを検討することが求められます。一方、外部倉庫を利用している場合は、倉庫の規模が荷量に対して適切であるかどうかを見直すことも有効です。必要以上に大きな倉庫を契約している場合は、よりコンパクトな倉庫に切り替えることで賃借料を削減できるだけでなく、作業効率の向上も期待できます。
倉庫運用の最適化は、物流全体の効率化にも直結するので、定期的な見直しが重要です。
情報処理費
物流業務においては、仕入れや在庫管理、出荷指示など、多くの情報処理が日々発生します。これらの費用を最適化することによって、コスト削減が可能です。例えば、在庫管理にWMS（倉庫管理システム）やハンディーターミナルなどのマテハン機器を導入することで、作業の正確性を向上させ、ヒューマンエラーを最小限に抑えることができます。
また、情報処理の効率化は作業スピードの向上にもつながるので、人件費や荷役費の削減にも寄与します。さらに、デジタル化や自動化を導入することも大切です。人的作業に依存せず、正確かつ迅速な情報管理体制を構築することが、物流コスト全体の最適化において重要な施策です。
物流コストを削減するには
物流コストの削減は、企業の利益改善や競争力向上に直結する重要な課題であり、さまざまな手法によって実現することが可能です。特に注目される方法として「拠点の集約」「倉庫内作業のルール化と見直し」「物流管理システムの導入」「業務のアウトソーシング」の四つが挙げられます。これらの施策を適切に組み合わせることで、物流コスト全体の効率化が期待できます。
拠点の集約
物流コストの大部分を占める輸送費は、企業にとって削減効果が大きい項目です。多くの企業は運送会社と料金交渉を行い、限界までコストカットを進めている場合が多いですが、料金自体を変えずにさらなる削減を実現するためには積載率の向上が鍵となります。複数の拠点を統合することで荷物をまとめて運送でき、輸送効率を高めることが可能です。加えて、拠点を集約することで人件費や保管費も抑えやすくなり、総合的に物流コストの削減につながります。拠点の集約は単なる輸送効率の改善にとどまらず、物流全体の運営効率を高める重要な手段です。
倉庫内作業のルール化と見直し
次に、倉庫内での作業をルール化し、定期的に見直すことも重要です。作業がルール化されていない場合、効率は上がらず、思わぬ形でコストが膨らむリスクがあります。例えば、トラックの都合がつかず営業担当者が顧客に直接商品を持参するケースでは、配送費用が営業費用として計上され、物流コストが低く見える可能性があります。大雑把な運用では正しいコスト把握が困難となり、改善策も見出せません。
そのため、倉庫内の作業は明確なルールを設け、現状を可視化したうえで効率化を図ることが重要です。さらに、ルールは一度作ったら終わりではなく、日々の運用状況に応じて見直すことが求められます。
動線やレイアウトの確認だけでも、二重作業の削減や導線の短縮などの改善点を見つけることができ、無駄の少ない運用につながります。
物流管理システムの導入
物流業務では、物の数量や品質を正確に管理することが求められ、人が管理する場合は人的リソースやヒューマンエラーのリスクが伴います。そこで物流管理システムを導入することで、これらの課題を解消しつつ、作業の効率化とコスト削減を同時に実現可能です。システムには自動仕分け機やピッキングカート、シュリンク包装機など、さまざまな専門機器があり、効率的な商品集めや正確な作業をサポートする機能が備わっています。
例えば、デジタル・ピッキング・システムでは、棚に設置された電光掲示板にピッキング数量が表示され、作業終了時にボタンを押すと次のピッキング対象が自動で表示される仕組みとなっており、作業効率や正確性が大幅に向上します。このようなシステムはペーパーレス化にも貢献し、物流業務全体の効率化とコスト削減に寄与することでしょう。
業務のアウトソーシング
物流業務を専門会社に委託することで、費用の可視化が容易になり、随時見直しが可能となります。請求が明確に発生するため、物流コストがブラックボックス化せず、現状の費用構造を正確に把握できます。さらに、アウトソーシングによりメーカーは商品の開発や製造、営業活動に専念できるようになり、倉庫の維持管理費も削減可能です。自社で倉庫やトラック、物流担当者を抱える場合、繁忙期に在庫をストックしていたスペースが閑散期には余剰となり、不要なコストが発生します。
一方で、アウトソーシングをすればこれらの資産を持つ必要がなくなります。すでに自社で物流資産を保有している場合も、アウトソーシングを活用することで資産を現金化でき、キャッシュフロー改善にもつながるでしょう。
