工場や倉庫、店舗のバックヤードには、多種多様な在庫が保管されます。原材料・部品・製品など在庫品の幅は広いですが、いずれにしても在庫管理の改善は急務といえるでしょう。本記事では、在庫管理の目的から手法、効率化のポイントまでまとめて解説します。ぜひ参考にしてください。
在庫管理の目的
在庫管理とは、企業が必要な数量の商品や原材料を適切なタイミングで供給・販売するために、在庫の数量や状態を適正に維持する業務を指します。在庫には、保管中や輸送中の原材料、半製品、製品などの棚卸資産が含まれます。適切な在庫管理を行わなければ、在庫不足によって顧客からの注文に応えられず機会損失が生じることでしょう。
その一方、過剰な在庫を抱えることで保管コストが増大し、資金効率の低下や業務効率の悪化を招きます。そのため、売上の最大化とコスト削減の両立を目指す企業にとって、在庫管理は不可欠な業務です。在庫管理の主な目的は、大きく分けて三つあります。
生産性の向上
第一に、在庫の最適化による生産性向上です。適正な在庫量を維持することで、過剰在庫や在庫不足による生産ラインの停止を回避できます。さらに、リードタイムを短縮することで欠品リスクが低減され、顧客満足度の向上と売上の増加が期待できます。
また、効率的なスペース利用によってピッキング作業の効率も改善され、資金の効率的な運用が可能となるでしょう。これにより、企業全体の生産性向上につながります。
コスト削減
第二の目的は、適正な在庫量を確保することによる無駄なコストの削減です。過剰在庫を抱えると、保管にかかる様々なコストが発生します。具体的には人件費、フォークリフト稼働費、空調費などが挙げられます。こうしたコストは在庫量の適正化によって抑制でき、結果的に企業の収益性向上に貢献可能です。
キャッシュフローの安定化
第三の目的は、キャッシュフローの安定化です。在庫は財務諸表上「資産」として計上されるが、現金として手元にあるわけではありません。そのため、在庫が売れずに長期間保管されていると、現金の流れが滞り、買掛金や支払い義務を期日までに履行できなくなるリスクがあります。
特に過剰在庫が原因で資金繰りが悪化すると、帳簿上は黒字であっても倒産に至るケースも。在庫管理によって適切な在庫量を維持することは、企業の資金繰り改善やキャッシュフローの安定化にも直結する重要な取り組みです。
在庫管理の手法
在庫管理を効率的に行うためには、具体的な手法として大きく二つの方法が存在します。一つは従来型の在庫管理表を作成して管理する方法、もう一つは在庫管理システムやアプリなどのITツールを活用する方法です。それぞれの手法には特徴と利点・欠点があり、企業の規模や在庫の種類・数量に応じて適切に選択することが求められます。
在庫管理表を作成する方法
まず、在庫管理表を作成する方法についてです。在庫管理表とは、商品名、品番、数量、日付などを記入した表であり、日々の入庫・出庫情報を記録することによって、現時点での在庫数量や棚卸金額を把握するためのものです。この方法は、在庫の数量や種類が少ない場合や、在庫管理用のITツールを導入する予算が確保できない場合に有効といえます。表計算ソフトや紙ベースで簡易的に作成できるため、初期コストが低く、比較的導入しやすい点がメリットです。
ただし、昨今ではIT技術が急速に発展しており、安価で機能が充実した在庫管理ツールが多数存在することから、在庫管理表のみでの運用は効率面や正確性の面で限界があります。基本的にはシステムやアプリを中心に活用し、特殊な計算や管理項目が必要な場合にのみExcelなどで補完する運用が望ましいとされます。
在庫管理システムやアプリの活用
次に、在庫管理システムやアプリの活用についてです。従来型の管理表を手作業で運用する場合、日々の記入や計算に多大な時間と労力がかかり、誤字脱字や入力ミスなどヒューマンエラーが発生しやすくなります。特に在庫の種類が30種類を超える場合や、入出庫件数が多い場合には、手作業での管理は業務効率の低下や在庫精度の低下を招く可能性が高いです。こうした課題を解決するのが、在庫管理システムやアプリの導入です。ITツールを用いれば、在庫情報がリアルタイムで更新され、入出庫の履歴や在庫数量を即座に把握できるほか、ヒューマンエラーの発生を大幅に抑制できます。さらに、バーコードやQRコードによる自動入力機能、在庫の自動補充通知、分析レポート作成など、業務効率化や経営判断に役立つ機能も備わっています。
在庫管理の効率化のポイント
最後に、在庫管理の効率化のポイントについてみていきましょう。具体的なポイントは、以下の通りです。ABC分析
まずABC分析は、企業が取り扱う商品群を重要度に応じて三つのグループに分類する手法です。売上構成比や利益貢献度を基準に「Aランク」は最も重要で売上構成比が高い商品群「Bランク」は中程度「Cランク」は低い商品群として分類されます。在庫管理において、全商品が均等に出庫されるわけではなく、長期間動かない商品も存在します。ABC分析を行うことで流動性の高い商品群を把握し、優先的に管理すべき対象を明確にできることでしょう。
これにより、経営資源を集中させる商品や取り扱いを縮小すべき商品を選定し、効率的な在庫管理が可能となります。
在庫回転率
次に在庫回転率は、在庫が一定期間内にどれほど効率的に回転しているかを示す指標です。計算式は「在庫回転率=期間中の総出庫数÷期間中の平均在庫数」で算出され、業界や商品特性によって適正な回転率は異なります。消費者ニーズの変動が激しく新商品の投入が頻繁な業界では高い在庫回転率が求められる一方、季節商品や高額商品を扱う場合はある程度低い回転率でも適切とされます。在庫回転率を把握することで、在庫の効率性を測り、過剰在庫や欠品のリスクを管理できることでしょう。
ロケーション管理
ロケーション管理は、倉庫内で商品を保管する場所と商品を紐付けて管理する手法です。どの商品がどの位置にあるかを明確にすることで、倉庫内を探し回る時間や労力を削減でき、ピッキング作業の効率向上につながります。棚ごとに管理する場合や、平置き商品に線を引いて管理するなど、保管形態に応じた方法を採用することが望ましいです。
原価管理方法の選定
さらに、適切な原価管理方法の選定も在庫管理において重要です。在庫の出荷時に計上する原価計算方法には、先入先出法、後入先出法、移動平均法、標準原価法などがあります。食品や医薬品、化粧品など有効期限がある製品は先入先出法を採用することで在庫の劣化や廃棄を防ぎ、品質を維持できます。
一方、建設業や石油・ガス業界など価格変動が激しい業種では、最新の高価な在庫を先に計上することで市場価格の変動を反映させ、価格リスクを軽減させることが可能です。自社の業種や商品特性に応じた原価管理方法を採用することは、財務報告の正確性向上や、品質の維持、企業の信頼性向上に直結します。
棚卸し
最後に棚卸しは、企業が保有する在庫の数量や価値を確認し、帳簿上の在庫と実際の在庫が一致しているかを検証するプロセスです。棚卸しを定期的に実施することで、在庫の正確性が向上し、入力ミスや不正の早期発見が可能となります。また、過不足の把握によりコスト管理の精度も高まり、財務報告の信頼性向上にも寄与します。一方で、棚卸しを怠ると在庫不正や記録ミスが見過ごされ、財務報告やコスト管理に深刻な影響を及ぼすリスクが高いです。

